B:暴虐の策略家 スケアクロウ
霊峰ソーム・アルの様子を覗うため、麓に向かった神殿騎士団の偵察隊が、行方不明になったの。
数日後、追加派遣された捜索隊は見つけたわ……。
……竜の眷属ビネガロンの死体と、その前に立つ騎士の姿を。
でも、生存者を発見したと喜んで捜索隊が近づいたところ、突如としてビネガロンが立ち上がり、襲いかかってきたらしいの。惨殺した騎兵を利用し、捜索隊を誘き寄せたってわけ。
この狡猾な眷属は、襲撃の後、霊峰の方へ逃げ去った……
おそらく今頃は、ドラヴァニア雲海でしょうね。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
俺は目を瞑って倒れている。死んだふりは得意な俺はピクリとも動かない。
先だって山を登ってきた鉄で身を包んだ戦士の死体を枯れた立木に突き刺して立たせ、おれはその脇に横になっている。
知ってるんだ、人間って奴は仲間の消息が不明になると必ず探しに来る。恐らくはその結末が分からないと不安になる生き物なのだろう。そして仲間が生きていたと思うと途端に極度に油断する。きっと不安だった心が、眼に映ったその場の状況を自分に都合よく歪めて考えるのだろう。だから俺は人間の仲間が生きているかのように見せかけて油断を誘って狩る。
案の定不用心な足音が近づいてくる。目を閉じたまま人間の気配を探る。
人間の言葉は分からないが何か呼びかけるような声のあとボソボソと話していた。近寄ってきた人の気配は辺りを少し警戒しているようだが、木に突き刺した死体の方に気配が動いた。
今だ!
俺は目を開いていき良い良く起き上がり、間抜けな人間に飛び掛かる‥‥予定だった。
「や~っぱりそうやって人を騙して狩ってたのね」
目を開け起き上がろうとする俺の目に剣を突き付けた人間の剣士がそう鳴いた。意味は分からない。
俺は今にも目に剣を刺されそうな状態で身動きできなくなった。
くそっ、非力な人間の分際で俺を騙しやがって。
ふつふつと湧く怒りを感じたが、俺はじっとしていた。目を刺されたら痛いからね。
女剣士の向こうに杖を背負った魔女が居た。魔女は俺の方を見もしないで俺が仕掛けた騎士の死体を木から降ろすと仰向けに寝かせて胸の上で手を重ねさせる。
魔女は物知りだと聞く。畜生、この魔女が俺の完璧な作戦を見抜いたのか。
「教えてあげるわ。人間はね、同族の亡骸を弄ばれるのを物凄く嫌うのよ」
魔女が静かに鳴いた。何を鳴いているのか、その鳴き声の意味は分からないが、なんだか怒っているのは伝わってきた。
「まぁ、言葉が通じるほど知能が高ければこんな下劣な狩りの仕方はしないだろうから、何を言われてるかなんてわからないだろうけど」
意味は分からないが軽く侮辱された気がして俺は唸り声を上げ、体を動かした。途端に剣士の剣が今にも眼球に触れそうなほど近づいてくる。俺はまた黙ってじっとしていた。
魔女は辺りを何かを探すように歩き回り、他の騎士の死体も見つけ出すと木から降ろした死体の横に綺麗に並べた。
持って帰るつもりなのだろうか?だがそれに何の意味があるのかは分からない。
綺麗に並べ終えると魔女は女剣士に声を掛けた。女剣士は一歩後ろに下がり、眼球に突き付けていた剣を少し引いた。
しめた!
俺は勢いよく体を横転させると尻尾を大きく振った、女戦士には軽々と避けられたが、それは織り込み済みだ。その勢いを使って体を捻じり、戻す勢いで立ち上がった。
バカな人間どもめ。あのままとどめをさせばよかったものを。本当にバカな奴らだ。
また人間が何か鳴いている。
「動けなくしたまま殺したら寝つきが悪くなるもんな」
女剣士が背中に背負った盾を外し左手に構えた。その後ろで魔女も杖を手に持ち、構えた。
「へっ!バカな人間ども。今日の所は勘弁してやる。次会ったら覚悟しろよ!」
恐らく人間には俺の言葉は通じないだろうとわかっていたが、俺はそう叫ぶと踵を返して走り出した。
……いや、ここまできたら正直に言うが、俺は野生の勘に従って逃げ出した。あいつらただもんじゃねぇ。